「絶歌」(元少年A著)を読んで。その謎と矛盾に迫る。

time 2015/06/13 公開

time 2015/06/17 更新

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まずは、あとがき批判から

ネット上では、「あとがき」が取り上げられ、その掲載も含めて様々な話題になっているようです。
本稿でも、まずは、あとがきに着目して、内容について迫ってゆこうと思います。

独りよがりなあとがきであることは間違いない

確かにあとがきは独りよがりな感情が爆発しています。
(あとがきを全文掲載しているページもありますね)

あとがきを通して主張したことは、「書くこと」こそが、「自己救済の方法である」「だから書かねばならなかった」ということで、まさしく独りよがりです。遺族に無断で出版したことに対しての謝罪として、説明を十分に果たせていません。

皮肉的なあとがき文末

また、あとがきの文末にはこうあります。

せめて、この本の中に、皆様の「なぜ」にお答えできている部分が、たとえほんの一行でもあってくれればと願ってやみません。(P.294)

この文章が、心からのものなのか、果たして皮肉なのか、非常に迷いどころです。

確かに、犯罪心理の発生するメカニズムについては、精神分析医をもってしても見抜けなかった事実を克明に描写しています。しかし、少しでも知識をお持ちの方であれば、この事件を巡るいくつかの疑問について、一切の回答がないことに気づくでしょう。

校門の「なぜ」

① 犯行当時少年の身長は160cm程度で、校門の高さは198cmであったが、果たして頭部を簡単に設置することができたのか?

これについては、

いろいろと悩んだ挙句、僕は門の真ん中に頭部を置き、二、三歩後ろに下がって、どう見えるかを確認した(P.97)

と書かれているだけです。本文の前後では、自転車で学校まで向かうシーンや、校舎の中央部にある校章などの描写が克明です。いかにも名高い作家に影響されたかのような文体で、それこそ”ポエム”が綴られています。

しかし、肝心の校門については、それがどういった校門で、どのような高さで、どうやって設置したのか、何故か全くといっていいほど触れられていません

その他の「なぜ」

その他、本書を読んでも解決されない疑問について以下に挙げます。

② 彩花さん殺害の犯人は左利きと推察されるが、少年Aは右利きである。この食い違いの理由は何か?
③ 犯行供述が目撃証言や鑑定内容と食い違う点が多かったのはなぜなのか
④ 中学の国語の成績も2とあまり優秀ではない彼が、どうして「成人の犯行である」と思わせるような、高度な犯行声明文を書くことができたのか。

など、枚挙に暇がありません。

元少年Aは疑問の全てを知っているはずである。

読書にのめり込む傍ら、僕はこの時期から、自分の事件について本格的に”勉強”を始めた。自分について書かれた本を集め、新聞や雑誌記事など事件当時のものにまで遡ってほとんどすべてに眼を通し、自分だけではなく他の少年犯罪についても調べた。(P.255)

自分の記事をほとんど全て眼を通した、と彼は述べていることから、本事件に関して未解決である事象が何点か取り沙汰されていることには、当然認識があるはずです。

にも関わらず触れていない。これでは恣意的に言及を避けていると思ってしまっても無理はありません。

あくまで他人事か?

以上のことから考えると、「皆様の「なぜ」にお答えできている部分が、たとえほんの一行でもあってくれればと願ってやみません」という言葉は、あくまで他人事で皮肉めいているように感じられます。

「せいぜい見せかけの真実に踊り狂いたまえ」という傲岸不遜なメッセージが見え隠れしており、反省の色や自責の念が見られないように思えます。

本書最大の矛盾点

次に、内容における、矛盾点について指摘をしたいと思います。

本書では「猫殺し」を巡る凄惨な描写がされています。少年の狂気を推し量ることができる最大の場面であり、読み手に著しい不快感を催します。

最初の猫殺しからエスカレートしてゆき、やがて人間へ興味が移ってゆく……

こういった流れで本文は進んでゆきますが、これを読み進めて行くと、疑問が浮上してきます。

「猫の頭部を校門に置いた」ことには一切触れられていない

見出しにある通り、上記エピソードがこの手記にはありません。
一体どういうことなのか、順を追って見て行きましょう。

まずは以下の実在の記事をお読み下さい。

…中学校(文中は実名)の正門前に猫の死体があったのは、事件前の23日。早朝に正門前を通りかかった新聞販売店従業員が発見した。

猫は二匹で、いずれも体長20センチほどの子猫。頭部を門の方に向けて並べられ、一匹は左手足をちぎられていたという。新聞販売店従業員は「カラスの仕業かと思った」と証言している。
(神戸新聞97年5月30日朝刊/校長は見た!酒鬼薔薇事件の「深層」より転載)※「阿修羅」様の記事から孫引用

淳くん殺害が5月24日ですから、猫の死体遺棄事案は、その1日前に起きた、確かに存在した出来事です。
一連の事件の流れからすると、この事案も、少年Aが行ったものであると考えられています。

しかし、この手記では、このことがらについて一切触れられていません。

校門に設置することは突如のひらめきであった

以下に本文を引用します。これは淳くんの遺体の一部を校門に設置することを閃いた5月26日晩の回想です。

テレビ画面の砂嵐。葉型にひろがるカーテン。カーテンの裂け目から部屋の中へ零れ落ちる月の光。家庭訪問にきた二人の教師。…(中略)…

その狂った思考のレールの終着点に、水色のペンキで塗られた中学校の正門が聳えていた。

(中略)祖母の畑に埋めるのをやめ、自分の通う中学校の正門に晒す。それは、考えうる限りいちばん”間違った”答えのように思えた。いちばんまちがっているからこそ、この時の僕にとっては、それが”大正解”だった。(P.93~P.94)

このあと少年は玄関は音がするからと、頭部を携え部屋の窓から飛び降り(ここも疑問点ではあります)校門へと向かう事になります。

当初は”祖母の畑“に埋めようと考えていたが、まるで天啓のように、”校門説”が浮上した、という描写になっています。

そして何より、前日、「猫を校門前に遺棄した」ことについては一切言及されていません。

この文章を読む限りでは、「全く思いもかけない発想が浮かび上がった」ように捉えることができます。

しかし、仮に昨日、少年が猫を校門前に置いたのであれば、このように、まるでひらめきのような心理描写をするのか、甚だ疑問です。これについては、計画性があったように書いたほうが明らかに自然です。

したがって、これらのことから、校門前の猫事案については、少年は(休学中であったため)本当に知らなかったのか、あるいは本作自体がフィクションであるか、その可能性をも考えることができます。

本当に本人が書いたのか?

前章では、猫の死体遺棄事案が手記で触れられていないという矛盾点を指摘しましたが、本作自体がフィクションである、と仮定したとき、真っ先に浮かぶ疑問は、「この作品は本当に元少年Aが書いたのか?」ということです。

これについては、この手記に関するブロガーの感想で、興味深い記述があります。

恐らく落合美砂というライターが文章をまとめたのだと思うが、本人のメモを元にしたのか口述筆記したのか、或は他の手法をとったのか、文章がキレイ過ぎるのが気になった。(ますぶちStyle/宝石箱の片隅様より)

真偽のほどは不明ですが、何れにせよゴーストライターによって書き上げられた可能性は存在するようです。

私もそのように感じる所ですが、その理由について、前章に加え疑問に思った点を以下に記します。

二部構成の妙

本書は医療少年院に収容されるまでを第一部とし、少年院から出所して現在に至るまでを第二部にするという二部構成になっています。

第一部と第二部では章立ての構成が違います。

ZEKKAMOKUJI

ZEKKA

第二部には(○年○月~○年○月)という期間くくりで構成されていますが、第一部には時代表記はありません。

また、第一部は「GOD LESS NIGHT」「精神狩猟者(マインド・ハンター)」などと、いかにも中二病のようなタイトルですが、第二部のタイトルは「ふたたび空の下」「居場所」など、シンプルです。

文体も、狂気を孕みながら、繊細である第一部に比べ、気の抜けた炭酸のようなエッセイの第二部と、ずいぶん印象が違います。あとがきもまた、これまでの文と異なる印象を受けます。ちなみに、あとがきが最も稚拙です。

著者が、あえて文体に落差を見せて、更生したように見せかけたのであれば、「手記」というべきジャンルにおいて、本来不要であるはずの、小手先の技術を駆使したこということで、不誠実で不快に感じざるをえません。

(手記の中では、憧れの作家として、三島由紀夫と村上春樹を挙げていました。第一部は三島由紀夫的で、第二部は村上春樹的でもあります。期間を表示するところも、「1Q84」を彷彿とさせるところはあります。)

一方、前章に挙げた事実描写の欠落や、矛盾点、そしてこの奇妙な段落構成を総合すると、もしかしたら複数人のゴーストライターが本作を書き上げたのではないか、というように思えてきます。

本人はあとがきを書いただけかもしれません。

ミステリー:少年は本当に犯行を行ったのか?

(この章はやや深読み・曲解があるので、この手記の存在自体を不快に感じられる方は、読み飛ばしてください)

本稿第2章では、「猫殺し」の矛盾点を指摘しました。その理由の一つ目については第3章で言及しましたが、もう一つの理由である「少年が本当に知らなかった」という可能性について考えてみたいと思います。

今まで感想や事実を簡単にまとめると、こうです。

  • 「書くこと」こそが、「自己救済の方法である」「だから書かねばならなかった」と独りよがりである。
  • 「皆様の「なぜ」にお答えできている部分が、たとえほんの一行でもあってくれればと願ってやみません」と妙に他人事である。
  • おまけに「なぜ」の核心にほとんど言及がない
  • 事件のことについて、ほぼすべての記事に目を通したことがある。
  • 校門前への猫の死体遺棄について一切の言及がなく、矛盾を感じる
  • 段落構成が妙である

どうも書いている内容に一貫性がないように思えます。「精神の不安定さ」を感じ取ることができてしまいそうな位です。

遺族の同意もなく出版したことなども問題視されていますが、この不安定さは、「更生した元少年A」ではなく「狂気をもつA氏」を思わせます。

しかし、仮に、仮にです。これが単に「狂気」ではなく、一貫性のある主張だとした時、見え方が変わってくるかもしれません。

犯人ではない、という前提で書かれたものであるとするのなら。

仮に少年Aが、事件の犯人でないとした場合、いずれの主張についてもこう説明することができます。

  • 「書くこと」こそが、「自己救済の方法である」「だから書かねばならなかった」
    →真実をどうにかして伝えたかった
  • 「皆様の「なぜ」にお答えできている部分が、たとえほんの一行でもあってくれればと願ってやみません」
    →誰か一人でも真実にたどり着いてほしいという希望的観測・懇願かもしれない。
  • 「なぜ」の核心にほとんど言及がない
    →矛盾点を解消する答えがない
  • 事件のことについて、ほぼすべての記事に目を通したことがある。
    →自分が犯人であるという可能性を疑問視している
  • 校門前への猫の死体遺棄について一切の言及がなく、矛盾を感じる。
    →読み手にそれを悟らせるようにあえてトリガーを仕掛けた
  • 段落構成が妙である
    →元少年Aパート(幻想)と青年Aパート(現実)を分けて書いている

異論反論が出てくるかと思いますが、一つの可能性として考られなくもないお話です。

まとめに代えて、本書を読む価値はあるか

以上様々な角度から本手記を評しましたが、まとめに代え、この本の価値について総合し、言及いたします。

この本は、あまりにも虚構言語の修飾が多く、自分を美化しています。

被害者や遺族に対しての謝意がみられないどころか、冒涜的な描写も時折見られ、遺族だけでなく、読む人にとっては精神に変調をきたすおそれもあります。

一方、表現自体は優れていることから、このような言葉の表現に憧れてしまう若い世代や、特定の層には妙な共感を呼ぶことも懸念されます。

そのためこの本が有害図書であることは間違いないと思います。

ただ、識者にとっては、いわゆる狂人の思想の根源を推し量る参考になると思います。

問題は若い世代の方々が読んだ場合です。犯行当時同世代であった彼の考えに感化されてしまうかもしれません。注意しなければならないでしょう。

いずれにしても闇が深い作品であると、そのように感じます。

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K.

  • 映画評論・書籍評論・ニュース分析など、考察系記事などを良く書きます。心理療法も分野なので、たまに謎の音声を公開することも。

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