【感想】小説「火花」に見る又吉の哲学とは?他の芸人小説とどう違うか?(ネタバレ無)

time 2015/07/28 公開

time 2015/09/20 更新

9,936 PV

火花

話題の的ですよねピースの又吉直樹の芥川賞受賞作「火花」

もうどこの本屋にいっても、これでもかというくらい平積みの『火花』ビルディングが林立しており、いかに他の店より高くしてやろうかなんて各々の本屋が競い合ってるんじゃないかってくらいに 中国の未完成の超大型建造物達を思わず連想してしまいました。

あらすじ

売れない芸人徳永と、熱海の花火大会で出会った自分には持ちえない様々なお笑い哲学と行動力を持ち、徳永が師匠と崇める先輩芸人神谷 共に将来芸人として成功することを夢見て日々活動する彼ら自身の葛藤やお互いの意見が激しい様で結局はシュールにぶつかりあう生き様を描いた作品です

キャラ

Cast1 神谷

よく目にする評価なのですがこの神谷という師匠たり得る存在 はっきりいってこれといった魅力がないんです

けどその特別な魅力がないからこそ、ただの強情な哲学を貫いてる、磊落とはいい難い偏屈な借金だらけのヒモ野郎だからこそ読み手がどことなく身近に感じ取る存在になれていたのかもしれません マルチに優れてる成功者は確かに尊敬できる存在ですが、誰にでもなんかいるじゃないですか 欠陥だらけなのになぜか憎めない自分には決して持ちえない才能や技術をひとつは持ってる人 どこかで馬鹿にしつつもまたどこかで一目置いちゃってる人ね

「徳永の顔面にブラック・ジャックみたいな日焼けあと、作ろっと」→P42

この台詞だけでも神谷のだいたいの人となりがイメージできると思います

Cast2 徳永

最近ではよくある何をしてもダメダメな主人公設定君 ただ彼の揺るがぬ魅力として神谷のことを本気で敬い愛しているのです

彼の魅力を理解できない人間がいたら腹を立てるし、自分がどうしようもない迷路や望まないリアルにぶつかった時は彼にそれをひっくり返してもらいに会いにいったり

音楽でいうとロックを貫くみたいな、とことん己のお笑い哲学からブレない奇想家神谷に憧れ、敬い、お手本にしてきた主人公徳永ですが、世間に商業として笑いを提供する立場として捨てなければならないもの、変革していかなければならないものに徐々に気づき始め、そんな世界のリアルな残酷を神谷に吐露するシーンの彼の思惑には非常に胸打つものがありました

又吉節

「こんな夜だけは、僕と神谷さんも相容れない。東京には、全員他人の夜がある」→P66

「強く吹きつける風が前髪を乱暴に流していた。鳥の鳴き声に呼応して、どこかで犬が吠えた」→P70

彼が紡ぐ独特な言い回しの情景描写は非常によかったです オリジナリティを出そうと努力している軌跡がしかと僕には見えました

「耳を澄ますと花火のような耳鳴りがして、次の電柱まで少しだけ走った」→P18

特にこれといって意味がない行動なんですけどなぜかしらどこかしらいつかしらに既視感を覚えてしまうこの行為がとても僕の心に突き刺さったのです

徹子の部屋での対談でも言っていましたがこの「特に意味のないけれどなんかやってまうやろ的行動心理」こそが彼の描き出したい世界観の真髄らしいです

彼の心酔している芥川龍之介の『トロッコ』にこの様なシーンがあるらしくとてもアツくその彼の真髄を語っていました なんともシュールな光景ですね

で僕はその彼の真髄にまた心酔してしまうことになるのです ああ、決して韻を踏んでいるわけではりませんよ

それにも増して際立っていたのが著者の筆致で描き出す独特なシュールな情景のヒトコマ

「僕と相方の山下は互いにマイクを頬張るかのように顔を近づけ唾を飛ばし合っていた」→3P

「姉は緊張で身体が強張り、異常に両肩が上がっていて無様だった」→P21

「車が走ってないことをいいことに車道のセンターラインを悠々と歩く神谷さんを見ていると、嘔吐感と相まって俄かに腹が立ってきた」→P38

「神谷さんが誤って灰汁取りの柄の部分を下にして器に突っ込んでしまったので、僕と神谷さんの間にスタンドマイクが立ったような按配になった」 →P112

「僕達は、ほとんど全ての信号に引っかかっていた。」→P88

 

セリフとして抜粋できないのですがコーヒーカップの掛け合いのシーン→P34、盗聴のシーン→p47 やサイフがベンチに挟まるシーン→p55 なんかもとてもシュールでした ピックアップしていったらキリがないのでここら辺りで抑えておきますが

 

彼の職業柄かもしれませんが人一倍笑いの要素が散りばめられていました テーマがお笑いだというのも大いにあったでしょうが

about 純文学

純文学とはそもそもどういう意味なんでしょうか?多分説明してって言われても答えられない人が大半だと思います 調べました 小説には大きく二分されるらしいです

かなりザクッとまとめると純文学は「芸術性」大衆文学は「娯楽性」に重きを置いているかといったところのようです

前者は文章力やその文体の美しさ、描写力などに重きが置かれ、後者はただただストーリーやキャラの面白さ重視といったところでしょうか

で改めて火花を思い返してみたんですけど あれ?これって大衆小説なんじゃないの?って思えるくらい娯楽性が強いんです 芸人の特性故か通常の書籍以上に各所に笑いの要素が目に付きました それに相まってとても読みやすくなっている

ですから純文学と大きく売り出したのはコマーシャルも兼ねてのことだったのかもしれません なんか言葉尻だけだとどことなく高尚なイメージと威圧感を多少なりとも含蓄していますからね

事実、純文学に送られる「芥川賞」と大衆文学に送られるとされる「直木賞」の境界線は未だに曖昧で今回の火花の様に人によっては逆に感じてしまう読者も多々おられると思います この長い文学の歴史の中で未だに曖昧なのだからやはり確実な線引きは無理なのでしょう

まあ全国の書店で読者の投票数で決める「本屋大賞」はだいぶに大衆文学よりなのかなとは思いますが 一番わかりやすい読者、まさしく「大衆」が決めるランキングなので 僕が一番信用している賞です 火花も何となく上位にくいこめそうな気もします それ程の内容と勢いがありますからね ちなみに芥川賞と本屋大賞のふたつを獲ることは至難の業といわれているらしいです

なまじ純文学と謳ってしまった為に和○アキ子や古舘一○に批評されてしまったのかもしれません 彼らの気持ちもわからなくもないです でも彼らに純文学って何なんですか?って聞いたらきちんとした回答が返ってくるのかはこれまた疑問です

もしかしてもしかすると、又吉ナオキだけにナオキ賞はダメでしょーみたいな? 頭痛が痛いとか音速のソニックみたいになってもうてるやんけー的なw  だから芥川賞にしとけー みたいなww

すいません、高田純次でも思いつきそうにない愚かな発想でした 忘れてください・・・

iseya

先行作品との違い

先代の芸人達が書き興した同じお笑いがメインテーマの小説と比較してみましょう

漫才ギャング (著)品川祐

売れない芸人と不良が刑務所での出会いを経てコンビを組む話

文章力もさることながら何分中身があまりない・・・ キャラやセリフの演出でつなぎつなぎ執筆した、勢いで誤魔化してる そんな印象を受けました

彼の本職だからこそ馳せる笑いへの思いがテーマでしたがとにかく笑えるところがない・・・ 品川自身の自己陶酔作品といってもいいかもしれません ただ映画では大ヒットしているので最初から映画脚本作って発表すればよかったんじゃないかなと思う次第です やっぱ実写主体でいこうと思っているものを無理に小説に書き興そうとすると稚拙な文章になるのは否めないのかもしれません というより多分彼自身に文才がないだけなのかも・・・ 又吉とはまた活躍する畑が違った様です

青天の霹靂 (著)劇団ひとり

お笑い芸人ではないのですがマジシャンという同じ舞台演者としての有象無象を描いています 笑えるシーンは随所に散りばめられていました とはいえ本懐はタイムスリップネタに重きが置かれているのですが

人間観察力では明らかに劇団ひとりに軍配があがるでしょう まあお笑いにおけるネタの特色を見てもわかりますが 物語としても淡々と読み進められて人情面のやりとりも作りこまれていててとも面白かったです ただいかんせん文章が少ないといったイメージが拭いきれません 余白がえらく多かった気がします

キャラ作りは100点、設定もよかったのですが何分活字で物語を興す文章力不足で大きな賞を受賞するには至らなかったのかもしれません 一応実写映画にもなっていて劇団ひとりも出演していますがなぜか原作者本人が出演するとイメージが狂ってしまう気がしてならないのは僕だけでしょうか  ですが映画のほうが一般的にも評価は高いし僕も感情移入がしやすかったです

火花が今後実写化されるかは不明ですが上記二作品はどうしても実写化して初めてその真価が発揮された様な気がしてなりません

その他芸人が書いた芸人にまつわる書籍として ロザン菅広文の『京大芸人』オリエンタルラジオ中田敦彦の『芸人前夜』などが存在しますが双方とも小説というよりかはエッセイに近かったので比較対象として除外しました

小説として大成しているかと問われれば火花のレベルには到底及ばないと思われます

神谷のモデル?

主人公徳永のモデルが又吉自身だと見れば、彼が慕う先輩芸人、烏龍パークの橋本という人が神谷のモデルと言われています

作中の徳永が神谷に電話をかけると一度目は必ず出なくて折り返し電話がくるのは実際に又吉から橋本に電話をかけた際に起こる恒例の現象だったらしいし、路上でふと聞こえてきたどこかの民家からの喘ぎ声をもう一度聞きに戻るという作中の出来事も二人の実体験だったらしいです

尊敬している人物を作中の登場人物にあてがうのはよくあることですがまさか橋本もこんな流れでメディアに取り上げられるなんて思ってもみなかったでしょう 正直ボクも、大好きなブラックマヨネーズの吉田が可愛がってる芸人としてしか橋本を知りませんでしたから 僥~~倖~~~~!!ですね

まとめ

一貫してシュール それにつきました このレビューだけでも何回シュールって使ったんだっていうくらいね それもまたシュールなんですが そして何より又吉独自の文体と世界観がしかと構築されていく様がひしひしと伝わってきました まさしく現代作家の超新星の生涯アルバムの1ページ目見てるみたいなね

芸人からの作家 異質なその出生に賛否両論毎日付きませんが いずれも娯楽作品を提供するクリエイターであることは間違いありません 足袋作りからのタイヤ産業に発展したブリヂストンでもその需要の根源には地を踏みしめ進むものづくりでした

人を楽しませる為に作品を作り上げる 又吉直樹の至上目的は幼い頃からどことなくブレてなかったのかもしれませんね

ラストシーンの神谷の奇行によって締めくくられる空気は結局神谷の思想の真髄を持ってきて、何ともいえない緩い空気で筆を置きたかったのでしょうか 芥川賞の選考委員も なんともいえない印象を書評に記していましたが・・・でもまさしく神谷の最後に飛び跳ねるシーンこそが『火花』だったのかなと

小説にしろ漫画にしろ脳内にビビビッと思い浮かんだシーンを描きたくてそこから前後に肉付けして物語を作っていくというパターンがざらにあるのですが それにしてもあまりに最後のあのシーンは・・・

まあこればかりは皆さんが実際に本屋で火花ビルディングの最上階を買い取ってこのタイトルの妙を目の当りにしてください

余談ですが上記の烏龍パーク橋本のお母さんはこのラストシーンを読んだ際、息子が神谷のモデルになってると聞き及んでたらしく息子が実際にこのラストの凶行にはしっていたと思い込み泣かれたそうです┌|゚□゚;|┐アアアアア!!!

いずれにしろ僕自身も純文学とは何ぞやと興味を持ち、読了して色んな事に刺激を受けた『火花』 皆さんにも必ず何か気づかせてくれるモノがあるはずです

戯言

この『火花』によって発生した印税収入は現時点で8300万 ですが又吉本人に行き渡る額は4000万円 その半分以上を彼の所属事務所ヨシモトクリエイティブ・エイジェンシー(以下吉本)が得るとのこと スマホの修理代レベルのボッタクリですわな・・・例えの規模がまるで違いますが・・・ まあ4000万も権利収入貰えたら僕はお腹いっぱいですがね そりゃ昔から欲しかった高い白のスニーカー履いてCM出れるわって

過去に『がばいばあちゃん』を書いて20億円もの利益を叩き出した島田洋七ですが彼はその印税の件で揉めに揉め結局吉本を退社しています

宣伝協力もそりゃもちろんありますけど最低限のラインは守らないとね いたーーいしっぺ返しがきますよ まあ又吉にはそんな騒動起こさずに今後もダブルワークに励んでいって貰いたいです

・K.の火花書評もどうぞ。こちら

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H.A.

HA

  • 趣味の宝庫。言葉遊びの鬼。新進気鋭の漫画家。”ある意味天才”とは、彼の為にある言葉なのかもしれない。

コメント

  • 難しい言葉無理に使おうとしてて読みづらいったらありゃしない

    by 匿名 2016年6月4日 15:46

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