虐殺器官(伊藤計劃)概要と感想(ネタバレ少々)あーやっぱりすごいこの人。

面白いという言葉で片付けるのは辛いです。やはり尋常ならざる才能を感じます。

膨大な知識もある種の知識の断片による物語の構成力が素晴らしい。

分析すればいくつかのテーマのトリビアルな知識を細分し文脈に織り込むという手法が使われています。

特にカフカのトリビアを会話にうまく散りばめる点は興趣をそそられました。

上手っす。

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伊藤 計劃
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基本テーマは「虐殺言語」「管理システムの綻び」「人類の進化の原初とその果て」「死者のまなざし」でしょうか。

著者の言いたいことは『ハーモニー』とも似ていますし、『死者の帝国』(円城塔氏作)も重複するところがあります。

伊藤計劃の3部作アニメ化もこういった類似傾向から、一連の流れとして制作されたものでしょう。

特筆すべきその偏愛

「虐殺言語」という大量殺戮兵器が具体には語られずブラックボックス化しているという批判がありますが、個人的には、「語りえぬもの」に中途半端に手をだして火傷するよりはマシだと思います。

ただ、主人公クラヴィス・シェパードルティア・シュクロウプへ想いについては若干弱かったかな。

ルティアは、主人公らが暗殺の最大標的とする虐殺言語の使い手、ジョン・ポールの愛人であり、同じく要注意人物としてマークをしていた相手ですが、彼女との会話を通じ、主人公は彼女の慈愛に満ちた人柄に惹かれてしまいます。

ルティアに再会し、自分の数々の罪を受容、あるいは断罪して欲しいと希いながら死線をかいくぐりますが、彼女の心を奪い続けるジョン・ポールへの激しい嫉妬が、任務の遂行の標的ではなく、嫉妬と憎悪の殺戮対象へと変化してゆきます。

しかし彼女に対する魅力が明確に描かれているかというと、そうでもないため、その点で主人公への感情移入がしにくかったかな。虐殺器官というのはブラックボックスであって良いとしても、こちらの存在については更に深く語られるべきではないかと思いながら読んでいました。

ただしラストで明かされる、母の眼差しの真実が、一つのヒントと考えることもできます。

母は息子クラヴィスに一瞥もくれたことはなかった、というのが明かされた真実です。また実際はルティアの眼差しも、彼を向くことありませんでした。

彼女はは幻影の象徴であるといえるでしょう。主人公が母の幻影を重ねただけでなく、ポールは失った妻と娘の幻影を追う。敵対している彼らの虚像の交差部に、彼女存在したと考えれば、敵である彼らは「似ている」と言えましょう。

オチについても異論はあるようですが、このことからするとむしろ必然の帰結とも考えることができます。

なお、彼らが語る人類の進化、ゲーム理論モデルにおいては、”全体への奉仕”というカミカゼ・アタックなどの成熟されたモデルについても言及されますが、じつは最も原初的で不確定な存在である「愛」という要素がまったく欠落しているようにも思います。

あらゆる意味での「偏った愛の表現」が、作品世界を支配しています。

アニメ化はどうなのだろう?

今作は膨大な知識量をあますところなく活用しているのが大衆的・啓蒙的であり、展開のみを追うことしかできないであろうアニメ化とはあまり馴染まないようにも思います。

原作未読ながら恥ずかしげもなく『屍者の帝国』はレビューしましたが、今回の映画視聴は見送る可能性が高いかも!?

まとめ

  • 伊藤計劃の原初であり最高の作品

『ハーモニー』より好きです。結構グロいですし、現実世界の情勢を捉えきれているかというと微妙な点もありますから、細部に目を光らせてしまうと作品が曇って見えるかも知れません。

しかし難解なのに読みやすいという妙なバランス感覚は、やはり天才のそれだと思ったりします。

人類は、惜しい人を亡くしてしまいました。

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