君の膵臓をたべたい(住野よる著)感想(若干ネタバレ有)

※住野よるさん第二作『また、同じ夢を見ていた』感想はこちら

『君の膵臓をたべたい』漫画版感想はこちら
君の膵臓をたべたい

販売手法が勝った作品。

「君の膵臓をたべたい」

この衝撃的なタイトルとこの淡く優しい表紙絵柄!どんな物語が待ってるんだろう、と、どきどきはらはらしてしまいます。

まあ結局読んで思うことは、「それっぽさにしてやられた」ということです。

出版社にとってみれば、戦略的な販売に成功した、といったところでしょうか。

この作品、もうすでに「つまらない」とは言えない風潮が出来上がりましたからね。

まあ私が思った感想は、これは「パスティーシュ」の一種だな、ということです。つまり先行文学のパロディですね。

作風は村上春樹

「僕」の一人称視点での語り、ヒロイン桜良との会話、主人公「僕」の当意即妙な返しは、村上春樹小説そのものです。

ただ性描写が存在しないのと、過剰な比喩表現もないので、「全年齢版村上春樹」といった感じで、多くの方にとって、読みやすい文章になっているように感じます。

物語のベースは「半月」など

「ヒロインが死ぬ系」については、古今東西あらゆる小説が存在します。

現代小説に焦点を当てれば、「ノルウェイの森」(村上春樹)はもとより、「いちご同盟」(三田誠広)「世界の中心で、愛をさけぶ」(片山恭一)、「恋空」(美嘉)など。でしょうか。いずれも大変なヒット作を生んだ作品です。

またラノベ界でヒットした「半分の月がのぼる空」(橋下紡、以下「半月」)も同様の世界観を持っています。

なかでも、この作品は、「半月」の要素が比較的大きい作品と考えられます。

「半月」は、心臓に病気を抱えていて余命いくばくもない文学好き少女が、たまたま入院してきた主人公と出会い、恋心を覚えてゆくという作品です。

半分の月がのぼる空―looking up at the half‐moon (電撃文庫)
大きな違いは、「半月」のヒロインは死なず、「君の膵臓をたべたい」のヒロインは死ぬということですが、この二作品が似ている点は、持病についての詳細が、片や心臓病で、片や膵臓病ですが、その病気の詳細が全くといっていいほど語られない点にあります。

ヒロインが死んでいるところから始まるのは「セカチュー」、病気やキャラの設定は「半月」、世間を斜め系に見る「僕」語りは「ノル森」 といったところでしょうか。各所から要素を抽出したかのように感じます。

「星の王子さま」の謎

ヒロインの桜良が好きな小説が「星の王子さま」であるということを明かされるシーンについては謎のままで終わります。

この書籍の貸し借りをめぐり、男女間の悶着はあるのですが、結局のところ、何故「星の王子さま」だったのか、そうでなければいけなかったのかの理由がほとんど語られません。

むしろ終盤で主人公が、「星の王子さま」的なほのめかしをするシーンがあるんですが、全く盛り上がりません。

「違うよ、自己完結の国から来た自己完結王子なんだ。敬ってよ」
彼女は白けた顔でみかんをむさぼった。彼女に僕の価値観を理解してもらおうとは思わなかった。彼女は僕とは反対の人間なのだから。(P.179)

「自己完結王子」と、それっぽいことを言ってみても彼女は無反応です。彼女の本来の性格からしてみれば、「ならさっさと命を絶って元来た星に還ったら?」くらいの諧謔はあってもいいものです。

こう考えると星の王子さまの件は、「付け足し」のようにも思えてきます。あるいは「半月」のように文学作品を挿入してみたものの上手く消化できなかったのでしょうか。謎です。

あと本書内では、「星の王子さま」の著者を「サン・テグジュペリ」と表記していますが、一般的表記だと「サン=テグジュペリ」であることは、作者が知らずとも校正の世界では常識的であるような気がします。やはり愛着がないように見えますねえ。

ちなみにあまり関係ないとは思いますが、「星の王子さま」 の訳者は、「いちご同盟」の著者同様、三田誠広氏です。

ツッコミ

毎度恒例の細かいツッコミシリーズですが、気になった表現を挙げます。

勿体ぶってしっくりこない

「正直、歯ごたえがよくて香ばしくて思ったよりかなり美味しかったけれど、何やらしてやられた気がして悔しいという心持ちがから上がってきたので、を傾げるに留めておいた。」(P.28)

日本語的意味では間違いとはいえないけれど、「何やら」という客観的な表現や、身体言葉が多く、理解し難い表現になっています。

セリフがよくわからない

「いたずら?自殺するとかしないとか話がごちゃごちゃしてきたね。とりあえず話をまとめよう」
「そうだね、君は彼女っていたことは?」
「何をどういう風にまとめたのか詳しく聞きたくないから、話さなくていいよ」(P.32)

たまにセリフがどっちのセリフか混乱したり、何を言いたいのか分からなかったりします。このセリフで言うと、「話をまとめよう」というのであれば、まとめるのは言い出しっぺのような気がしますが、実際の流れはそうではないので、読み手を混乱させることになります。

テンポやリズムを文章で表現しきれず、一定のペースで押し切ってしまっているところがありますね。

ダイヤの12

「いいから、引くよ。 はい、ダイヤの12」(P.116)

QはQだと思うのですが、12と呼称する文化もあるのでしょうか。

僕のことを”僕”か、それ以下にしか思ってない

「君やキョウコさん以外は、僕のことを【地味なクラスメイト】か、それ以下にしか思ってないよ」(P.179)

本作限定での矛盾表現ですね。【】表現は、「『僕』の名前」に置き換えるという暗黙の了解が成り立っていますが、このルールに従えば、文脈上おかしな会話になります。

「しゃべり場」の例えの古さから導出される執筆時期

「……っとお、かなり熱弁してしまいましたけどもぉ、ここ真剣10代しゃべり場だったっけ?」(P.193)

「真剣10代しゃべり場」というテレビ放送は2006年までなので、舞台は10年近く前ですね。作中では携帯を使っていますが、まだガラケー全盛であることもわかります。半月1巻とセカチューが2003年、前者は続刊は刊行、後者は映画化か、なので、当時はモロにブーム世代です。

ところで巻末の筆者の紹介文にこうあります。「大阪府在住の兼業作家。高校時代より執筆活動を開始。本作がデビュー作」

これを見ると、「高校時代より執筆活動を開始」という紹介が浮いてきますね。なぜあえてこの文言が必要だったのでしょうか。

答えはおそらくこうです。おそらく初期プロットが、彼女が10代の高校生時点のものであり、それを加筆して出版化した、ということでしょう。

2005年や2006年当初であれば、「セカチュー」や「恋空」余波が強いので、世代が交代するまで出版待機したとも考えられます。

優れた表現

一方素晴らしいと感じた表現を一つ。

「君より先に死んだほうがいい人間はたくさんいるんだね」
「本当だよ!」
彼女の同意に、僕は苦笑した。やっぱり僕は、彼女がいなくなったら一人になろうと思った。(P.94)

あえて息継ぎをしないで、淡々としたテンポで自分の将来の意志を固めたところは、リアリティがあります。

そしてここで、彼女が死ぬ物語という単一軸ではなく、「僕」が救済される物語としての伏線をも描けています。

彼女との会話を通し「一人になろう」と決断した主人公ですが、この決断は、仰々しく語るより真実味があります。人生における重要な決断というのは、何気ない瞬間や言葉に触れることで、ふと決定されるのが人間のリアルだと思います。

テンポの演出力が欠如していると先ほどは指摘しましたが、この表現においては目を瞠るものがありました。

まとめに代えて

確かにヒロインの死や遺書内容は、心打たれる物があります。これは否定しません。

ただ残念ながら、個人的にはおすすめしたいと思うほどの作品ではありません

本作は、先に言及したとおり、世間の流行の循環を狙っただけの作品です。実際に筆者がゼロ年代中期に温めていた作品であれば、オリジナティ要素も低いかなというところです。文章レベルも特段優れているということはないですし、仮に、当時出版したならば、類似作品の海に埋もれていたことでしょう。

ただ先行文学のツギハギを行い、新たな文学として蘇らせるという手法はビジネス手法として成功したようにみえるので、出版業界の新たな販売戦略は見えてきたのかもしれません。

本作の帯に絶賛の感想が寄せられていますが、こういうのってやはりあてにならないですね。「これがデビュー作なんて信じられない(以下略)(20代、女性)」って、あなたどんな本を読んできたのかと問いたくなるところです。

次回作、あるんですかねぇ。うーん。

追伸:主人公の名字について

主人公の名字についてはなぜこれだったのか、という疑問については作中からヒントを得ることはできません。

筆者が大阪出身ということからすると、もしかしたら母校があそこだったのかな・・?と想像するぐらいが関の山です。私の母校でもありますが。

んまあ、僕と年代や読んできた本は近いんだろうなぁ。

住野よるさん第二作『また、同じ夢を見ていた』感想はこちら

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

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