加藤片『良い祖母と孫の話』(全1巻)の感想記事。全ての家族に届けたい、渾身の作品

加藤片先生の『良い祖母と孫の話』(全1巻)の感想記事です。
元はpixivに投稿されていた作品であり、大幅に加筆修正を行って単行本化となったようです。

良い祖母と孫の話 (エッジスタコミックス)
加藤 片
小学館クリエイティブ (2016-09-10)
売り上げランキング: 1,045

商品紹介

祖母の手作り弁当をトイレに捨てる少女。

高校1年生のしょう子は父と二人暮らし。ある日、別居していた一人暮らしの祖母を、
父が引き取ることになり3人で同居することになった。しょう子のために毎日、弁当を作って持たせる祖母だったが、
しょう子はそんな祖母の愛情のこもった手作り弁当を学校のトイレで流し、自分で菓子パンを買って食べる。
「身近な他人」との距離感がつかめず、自宅でも息苦しい毎日。
弁当の中に食べられないおかずがあっても、祖母には伝えられない。
「祖母の期待に応える健気な孫」を演じ続けるしょう子は、普段の学校生活でも友人と本心をぶつけあうことはなく、
うわべだけの人間関係だった。そんなある日、しょう子の行いを祖母が知るところに。
それでも、しょう子を責めることなく、気づかないふりをして可愛い孫のためにスーパーで菓子パンを買い込む祖母に、
しょう子は意を決して「もう何もしなくていい」と言い放つが…。

他者とのコミュニケーション不全や高齢者介護など現代的な問題を含みながら、
「祖母」という大半の日本人の琴線に触れる身近な存在を通じて思春期の少女の心の揺れを描き、
SNS等で大反響となった表題作に加え、短編読み切り2本を収録した、要注目のコミックス。

Amazonより引用

表題作である「良い祖母と孫の話」は全4話、そして読み切りが2種類(各1話)収録されています。

まず絵柄に関してですが、第1話収録から第4話収録まで実に1年9か月かかったこともあるのか、第1話と第4話ではかなり絵の雰囲気が違っています。

良い祖母と孫の話
こちらは第1話

良い祖母と孫の話
こちらは第4話

もっと言えば、表紙の雰囲気も、中身の雰囲気とは結構違う気がしますね。
オリジナル版がpixivにありますが、こちらもかなり絵の雰囲気が違います(そもそもキャラも変わっていますが)。
私としては第4話の絵柄は非常に好みです。

感想

周囲の顔色を窺いすぎて本心をさらけ出すことができない、身近な家族であってもコミュニケーション不全に陥っている。
その上、祖母が愛情を注いだ手作り弁当を学校のトイレで流して、友達と一緒に購買などで購入したパンを食べる。

良い祖母と孫の話
食べてもいないのにウソをつくしょう子

そんな性格をした主人公であるしょう子だけを責めるのは簡単です。
しかしこの話はそこまで単純ではありません。

良い祖母と孫の話

しょう子は良い家族、良い孫でいる為に、ずっと我慢しています。

なぜ手作り弁当をトイレに流すのか

この作品では、この問いに明確な答えはありません。
恐らくしょう子もきっちりした答えを持ち合わせ居ないのでしょう。

ただ、読んでいて思いつくのは3点あります。

  1. 嫌いなものが入っている
  2. 他人が作ったものを食べるのに抵抗がある
  3. 友達と違うことが出来ない

まず1点目「嫌いなものが入っている」は、しょう子自身何度か思っている部分であります。
特に何が嫌いなのかはわかりませんが、毎日ピンポイントで嫌いなものをおばあちゃんが入れるとは考えにくいです。
「煮物」という単語が作中で何度か出ていたり、
良い祖母と孫の話小学校時代の回想に「いつも茶色い」から「いらない、嫌い」と言っていることから、煮物などおばあちゃん世代の料理がそもそも嫌いなのかも知れません。

次に2点目「他人が作ったものを食べるのに抵抗がある」は、直接的には出ていない部分でもあります。
しょう子の家族が父子家庭になった理由は定かではありませんが、小学校時代から母親は既にいないようです。
そのことから「手作り」という言葉になにか拒否反応を持っているのかも知れません。

良い祖母と孫の話
自分にくれた他人の手作りのバレンタインチョコをさり気なくカバンに入れるしょう子(その後、父親に渡す)

私も家族の料理は気になりませんが、赤の他人の手作りの料理やお菓子はなんとなく苦手で、共感できる部分ではあります。

良い祖母と孫の話

作中で「よその家みたいだ」、と表現していることからも、おばあちゃん(の料理)を今一つ受け入れられていないのでしょう。

そして3点目の「友達と違うことが出来ない」、これは非常に厄介です。

周りの友達が全員パンを食べている中で、自分だけ手作り弁当(しかも煮付など彩りが豊かとは言い難い)を食べるのは相当の勇気が必要でしょう。
良い祖母と孫の話

クラスメイトは皆寛大で、主人公しょう子を除けば唯一名前が出ているクラスメイトの大木ちゃんを含め、嫌々ながらも面倒ごとを手伝う、皆いい友達です。
良い祖母と孫の話

常にオドオドと人の顔色を窺っているしょう子ですが、もしも、たった一歩踏み出せることが出来れば、そこには全く違う未来があったかも知れません。

良い祖母と孫の話

家族コミュニケーション不全

おばあちゃんもまた、自分の存在意義を見出そうとしています。

おばあちゃんから見れば、自分の息子と孫の家に入る自分はよそ者とどこかで感じている。

だからこそ、自分の存在意義を見出す為に、家族、特に孫のしょう子に対して必要以上に構ったり、家事全般を請け負い、特売があれば雨の日にも手押し車を押しながら買い物に行くのです。

しかしこういった家族の歯車の狂いはやがて表面化してゆきます。

お互いがお互いを気遣い続けて、相手を思いやる、という振る舞いで、お互いの本当の気持ちを見せ合うことから逃げ続けた結果、関係が破綻してゆくのです。

終盤においておばあちゃんは、しょう子に謝罪しながら、

良い祖母と孫の話

「なんでも言ってほしい」と問いかけます。しかし、おばあちゃん自身、しょう子に対して「なんでも言ってきた」わけではありません。

彼女もまた、相手を気遣うあまりに「何も聞かない」という選択をし、結果としてコミュニケーション不全に陥っています。

距離感をつかみ損なっているのは、しょう子もおばあちゃんも、同じ。

結果、しょう子が、「もう構わなくて良い」と、自分の思ったことを言うと、

良い祖母と孫の話

おばあちゃんは自分の存在意義を見失い、認知症が本格化してしまいます。

良い祖母と孫の話

「やっと言えた」

これは、しょう子にとって、そして、おばあちゃんにとってこれは幸せなことだったのでしょうか。

本作はコミュニケーションの限界、というものについても深く考えさせられる内容となっています。

良かった点と気になる点

良かった点

最終話である第4話の、ラスト4ページにこの作品の全てが集約されていると言っても過言ではありません。

この間に交わした会話は、おばあちゃんからしょう子へのたった一言のみ。

最終のコマの後から流れるように表紙のシーンへと移ることが出来る、非常に上手い作りになっています。

だからこそ

気になる点

感動させるぞ、って感じがする帯の煽りが余計です。

良い祖母と孫の話

 

本作ではしょう子、実際にこの「ごめんね」という言葉を発していません。

第4話の冒頭では、しょう子が前に進んで成長していることを示唆する場面が、そしておばあちゃんとの思い出が、描かれています。

河原でしょう子が車椅子に乗ったおばあちゃんを押し、その時にしょう子がおばあちゃんに掛けようとした、だけど言えなかった言葉。
おばあちゃんからしょう子へ掛けた言葉。
この一連の流れの中、しょう子の中で様々な葛藤が渦巻いている時に、出てくる言葉、感情。

そこにあったのは単なる謝罪の気持ちだけではないはず。

まとめ

トイレに弁当を捨てる、というやや特殊な状況もありますが、無理矢理ではなく、どこか自然と共感できる部分がある作品となっています。
逆に「トイレを綺麗にしたら別嬪になれる」という話も特殊であり、共感しにくい部分(植村花菜の体験談らしいので、当然と言えば当然なのかも知れませんが)。

良い祖母と孫の話

罪悪感から心の中で許しを請ったり、もやもやした気持ちから逃れようとしたり。
その為にしょう子は考え、行動します。
でも逃れられない。
結局は、自分の中で折り合いをつけないといけないということなのでしょう。

機能不全家族、とまではいかないにしても、身近な家族相手でも距離感がわからないといったことは全ての家庭において大なり小なりある問題だと思います。

この作品は、その答えを出してくれるわけではありません。
しかし、結末は決して悲しいものではありません。

良い祖母と孫の話

私も、認知症の祖母車椅子に乗せてを押すことがあります。
そしてごくたまに、会話が通じることがあります。
その時に出てくる感情や言葉は、「ありがとう」や「ごめん」などという単純なものではありません。
だからこそ、この物語の最後のシーンが映えるのです。

良い祖母と孫の話

加藤片先生ですが、漫画家を専業とせずに会社員という社会人と並行してこの作品を描かれていたようです。
読み切りである2本の作品もなかなかエッジが効いた作品であり、今後も漫画を描かれるのかはわかりませんが、ぜひともまた別の作品を読みたいと思いました。

俺からは以上です。

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